39 すききらい

職場に、毎朝掃除に来るパートの主婦の方。先日、その方と同僚と私の3人でお茶をしたのだけど、主婦の方からチャーミングでファンタスティックなお話を聞けました。

ちょうど、彼女の周りの人間関係でごたごたがあった矢先でしたので、その流れで【自分の嫌いなものや嫌いな人とはどう折り合いをつけていこうか】という話題になったのです。

きらいなもの、苦手なもの、人物や、事柄、なんでもそうなのだけど、この世界でそういったものを限りなくゼロに近づけたら、もっと世界が大好きになるだろう……と。

自分の周りが大好きな人やもの、楽しいことに囲まれたら、きっともっと豊かになれる。克服しよう。嫌なことを。たとえ克服できなかったとしても、良い所を見つけていこう。

私達3人は、真っ昼間からあーでもないこーでもないと思案しました。西洋風のカフェの窓際に腰を据え、目前の8号線を行き交う自動車に時折目をやり、ゆったりとした時間を共有します。

ゴキブリさえ、愛せたら。

主婦「私思ったんですよ。ゴキブリの物語を作ろうって。声はこんな感じで、シチュエーションはこんな感じで」

うん。

主婦「そうしたらさ、店に出てくるゴキブリにいちいち怯えず、心穏やかに仕事ができるんじゃないかって」

うん。

主婦「三日三晩イメージングしたんですよ。ゴキブリがでてきても、彼女(?)だって子供を産まなくちゃいけないから必死にご飯を探してるんだって。生まれてからこの店に出るまでの過程を想像したんです。そこで私がスリッパを持って果敢に立ち向かおうとする瞬間、ゴキブリは可愛い声で『やめてー!ころさないでー』って言うの」

※彼女の妄想です

主婦「もしゴキブリが虹色だったら可愛いかな?とか色々な案も考えたんです。少しでも好きになれるように。そうしたら、ゴキブリも怖くなくなるかもしれないって」

……それで。どうでした?ゴキブリのことは好きになれました?

主婦「この前出たとき、やっぱりゴキジェット噴射して、スリッパでスパーンってやっちゃった。やっぱり、なかなか、好きにはなれませんね……」

アーモンド形の瞳をこちらに向け、彼女はやれやれと肩を落とします。

ゴキブリさえ、愛せたら。

そうしたら、彼女の世界はもっと明るくなるのかもしれません。